江國香織「落下する夕方」

コトリ先生のおすすめ

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今回は江國香織の「落下する夕方」について書いていきます。

梨果と八年一緒だった健吾が家を出た。それと入れかわるように押しかけてきた健吾の新しい恋人・華子と暮らすはめになった梨果は、彼女の不思議な魅力に取りつかれていく。逃げることも、攻めることもできない寄妙な三角関係。そして愛しきることも、憎みきることもできないひとたち…。永遠に続く日常を温かで切ない感性が描いた、恋愛小説の新しい波。

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コトリ先生
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中学生の頃に初めて読んで以来、繰り返し繰り返し読んだ作品。ストーリーは全て頭に入っているので、今ではその本をバッッとランダムに開けて、その段落を読むという謎の読み方をしています。表現方法や言い回しが素敵なので、本を開くたび、感動します。そのくらい好きな作品です。

以下、原作のネタバレです。

登場人物

  • 坪田梨果 この「落下する夕方」の主人公。藪内健吾と8年一緒に過ごしてきた。別れた後は華子と一緒に暮らすことになる。
  • 薮内健吾 梨果と8年付き合ってきたが、一度会っただけの華子を好きになり、梨果との別れを決める。  
  • 根津華子 謎の多い女性。不思議な透明感があり、みんなの心を惹きつける。
  • 涼子 梨果の2番目の大学時代からの親友。今は結婚し、香港に住んでいる。
  • 勝矢 健吾の友人。健吾と同じように華子に惹かれ、離婚した。
  •  
  • カツヤノカナイ 華子と正反対の現実的な女性。華子に敵意を持っている。
  •  
  • 重藤直人 梨果が勤めている学校の生徒。華子のことが好き。
  • あらすじ※ネタバレあり

    「引っ越そうと思う」

    梨果と8年間同棲していた恋人、健吾のこの別れの言葉から物語は始まる。

    別れのきっかけになったのは、華子だった。別れた後も健吾との繋がりを持ちたい梨果は、同棲していた部屋を引き払うことができずにいた。健吾と入れ替わるように押し掛けてきた健吾の片思いの相手である華子を追い返すことができなかったのは、それも健吾とのつながりだと思ったからであり、梨果は華子と一緒に暮らすことになる。そして華子の不思議な魅力に取り憑かれていく。梨果自身気付かないうちに、華子は彼女にとって、かけがえのない存在となり、同時に健吾への想いが自分にとって執着であることにも気づく。梨果、健吾、華子の3人は、不健全な関係を続けていく。

    「じゃあ、梨果さんも一緒に逃げる?」

    終盤で3人の関係に終止符を打つきっかけになった華子のこの言葉。そこからストーリーが一気に進み出し、そして衝撃のラストへと繋がる。

    「私引っ越そうと思うの」

    最後の梨果のこの一言が、最初の健吾の言葉と繋がる。同じ言葉ではあるが、そこに含まれるものは全く異なる。長い時間かかり、辿り着いたこの「引っ越そうと思う」という言葉を、皆さんはどう捉えるだろうか。

    「落下する夕方」の名言

    店を出ると、思いのほかくたびれていた。知らない人と話をしたのは久しぶりだ。こういうとき、うちに帰っても健吾がいないのは不都合だ。健吾の顔を見ればこんな疲れはいっぺんに飛んでいってしまう。

    「落下する夕方」江國香織

    おかえりなさい。子供が言うような言い方だった。私は胸が一杯になる。1ミリグラムの誤差もなく、言葉が正しい重力をもっていた。こんなに正しい重さの「おかえりなさい」を聞いたのは、久しぶりのことだった。

    「落下する夕方」江國香織

    「私はいつも逃げてばっかり」むしろ楽しそうに、歌うように華子はそう言った。

    「そういう人生なの、逃げまわって逃げまわって、でも結局絶対逃げられない」

    「落下する夕方」江國香織

    好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの」

    「落下する夕方」江國香織

    一人の男と人生を共有しているときの、ありふれた日常の信じられないような幸福、奇跡のような瞬間の堆積。例えば冬の朝、健吾の横で、あたりまえに目を覚ますこと。冷たい足を、頑健で、あたたかく生命に満ちた健吾の足にからめるときの安心。くもった窓ガラス。時間が止まってしまったような時間がとまったような数分。

    「落下する夕方」江國香織

    この本のここがすごい!

    コトリ先生
    コトリ先生

    この本の凄さは、江國香織さんの「言葉」だと思います。

    華子の独特の雰囲気やペースが、最初は「?」となるのに、梨果と同様どんどんその魅力に引き込まれていきます。天真爛漫なようで、年配の女性のような落ち着きもあり、全てを見透かしているような華子。華子に出会ってすぐに8年間付き合ってきた梨果に別れを告げた健吾の気持ちもなぜか理解できてしまうんですよね。華子が抱えていた闇は、最後まで明かされません。でも、残された梨果と健吾がそれぞれ幸せになってほしいと願います。

    最後の「私、引っ越そうと思うの」という梨果の言葉をどう捉えるか、ですね。

    この本は20年以上前に初めて読みましたが、読むたびに、感情移入する人物が変わります。

    その年齢、経験値によって、読み手の感想も変わるであろうと思います。それこの作品のすごさであり、だから素敵なんだと思います。おすすめです。

     
     
     

     

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